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地球温暖化の国際交渉をフォローしたいところです


by togura04

G8とMEFの力学

 イタリアはラクイラで開催されるG8(先進国)サミットとオバマ米大統領が同時招集しているMEFにおいて、EUと米国、途上国としては3すくみの主張で、おのおのの相手側の対策深堀りを求める主張が絡み合っているように思います。

EUのポジション
 2℃安定化気温目標→vs米国
 2050年50%削減目標のための途上国の総量削減への踏み込み→vs途上国(中国、インド、韓国、南ア…)

米国のポジション
 2050年50%削減目標→vs途上国(中国、インド、韓国、南ア…)
 (但し)基準年を2005年に?→vsEU

途上国(中国、インド、韓国、南ア…)のポジション
 1.5℃安定化気温目標のための先進国の更なる率先深堀り→vs米国
 1.5℃安定化気温目標のための先進国の更なる率先深堀り→vsEU


 この議論の中では、
日本のポジションは、(日本は真水で2020年に05年比15%削減、2050年に05年比60-80%削減で)
 2050年50%削減目標のための途上国の総量削減への踏み込み→vs途上国(中国、インド、韓国、南ア…)
 (但し)基準年を2005年に?→vsEU
という他国への主張であり、米国と変わらないポジションのように見えます。

 しかし、いくつかの観測記事によれば、オバマ米大統領は、従来の「2050年までに先進国が80%削減する」にさらに加えて、EUの求める2℃安定化気温目標を受け入れる意向があるようですので、この場合には自動的に2050年80%減の基準年は1990年と定まりそうです。

 レイムダックの日本麻生総理は、アメリカからハシゴを外されて、果たして2℃安定化気温目標を受け入れることができるのでしょうか?これまでの15%削減という数字以外にも新たな長期目標を約束することは難しい飲み薬でしょう。麻生首相が(も)断ることで、歴史的な国際合意の形成を阻むということになるのがありそうです。


 それとも?、「麻生首相が合意してしまった、とんでもない温暖化対策目標」という国内世評ができて、ますますふて腐れて温暖化対策をサボるという行動に至ることになるのかもしれません。
 政治が人の命を守らない、政治的理念のない国の視点でみれば、全く変な合意というのが出来上がりそうにも思います。国内の温暖化懐疑論者たちにとっては、またまた欧米の指導者の陰謀だ、と騒ぐネタには困りそうにもありません。

 そうなって欲しいなあ。
      ↓ 
 7/10朝記:そうなったようです。
産経:温暖化抑制、上昇「2℃以内」で一致 サミットMEF会合

同じく産経新聞社説「【主張】G8首脳宣言 80%削減目標は高すぎる」より
 ”地球温暖化対策では、「先進国全体で2050年までに排出量を80%かそれ以上削減する目標を支持する」との表現で、昨年の洞爺湖サミットよりも踏み込んだ。京都議定書で削減義務のない中国やインドなどの協力を取り込む狙いだったが、新興国側は冷ややかで調整は難航しそうだ。
 理想を掲げるのも悪くないが今回はきわめて高い目標値だ。よほど画期的な技術革新がなければ実現は難しい。単なる数字の上積みでは空手形になりかねないことが途上国にも見透かされている。”
 「技術革新」で80%削減ができるなんて、どうやってそんな確信を持てるのでしょうか?「法制度」という技術が見えないのがダメダメなところでしょう。

環境NGO・気候ネットワークのコメント
http://www.kikonet.org/iken/kokunai/2009-07-10.html

環境NGO・WWFJapan:2050年までに80%削減」G8の温暖化防止目標を考える
http://www.wwf.or.jp/activity/climate/news/2009/20090708.htm


G8首脳宣言:持続可能な未来に向けた責任あるリーダーシップ

”65.我々は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の作業、特に、最も包括的な科学評価を構成するその第4次評価報告書の重要性を再確認する。我々は、産業化以前の水準からの世界全体の平均気温の上昇が摂氏2度を超えないようにすべきとの広範な科学的見解を認識する。この世界的な課題は世界全体の対応によってのみ対応可能であることから、我々は、2050年までに世界全体の排出量の少なくとも50%の削減を達成するとの目標を全ての国と共有することを改めて表明する。その際、我々は、このことが、世界全体の排出量を可能な限り早くピークアウトさせ、その後減少させる必要があることを含意していることを認識する。この一部として、我々は、先進国全体で温室効果ガスの排出を、1990年又はより最近の複数の年と比して2050年までに80%またはそれ以上削減するとの目標を支持する。この野心的な長期目標に沿って、我々は、基準年が異なり得ること、努力が比較可能である必要があることを考慮に入れ、先進国全体及び各国別の中期における力強い削減を行う。同様に、主要新興経済国は、特定の年までに、対策をとらないシナリオから全体として大幅に排出量を削減するため、数量化可能な行動をとる必要がある。”

首脳宣言 エネルギーと気候に関する主要経済国フォーラム(MEF)
”我々は、産業化以前の水準からの世界全体の平均気温の上昇が摂氏2度を超えないようにすべきとの科学的見解を認識する。この関連において、また条約及びバリ行動計画の究極的な目的の文脈において、我々は、世界全体の排出を2050年までに相当の量削減するという世界全体の目標を設定するために、今からコペンハーゲンまでの間に、お互いに、また条約の下で、取り組んでいく。”

新聞各社社説
・日経:社説1 温暖化交渉の外堀を埋めたサミット(7/11)
 ”日本はこれまで「50年に60~80%削減」の長期目標を口にしながらも気温上昇については明確に言及してこなかった。80%以上の削減は米欧主導で決まった。「欧米を上回る」と政府が自負する中期目標では存在感を示せなかった。”

・読売:地球温暖化交渉 先進国と新興国との深い溝

・産経:「【主張】G8首脳宣言 80%削減目標は高すぎる」

・毎日:社説:温暖化対策 「2度以内」の道筋作ろう
”特に、「2度以内の抑制」は、科学者集団である「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が描く最も厳しいシナリオに基づく。これを超えると世界に悪影響が及ぶというのがIPCCの指摘で、新興国まで含めて、科学的に温暖化防止のゴールを設定した意義は大きい。
 ただ、この数値は責任分担を定めたものではない。MEFが「2度以内」で一致しつつ、長期目標に合意しなかった背景にも、削減の責任を避けたい新興国の思惑が見える。”

 しかし、この社説は、どうも事実誤認をしています。
”気温上昇を2度以内に抑えるには、先進国が90年に比べ20年までに25~40%削減することが必要とIPCCは指摘している。” 
 こんなことはIPCCは指摘していません。
「気温上昇を2度台前半に抑えるには、先進国が90年に比べ20年までに25~40%削減することが必要とIPCCは指摘している。」というのが正しい事実です。
 2℃を十分下回る気温安定化目標を設定したのであれば、IPCCが評価した全シナリオよりも厳しい削減目標が必要であり、20年までに40%以上の深堀りが必要ということになります。




 この機会に目標について終了拙ブログの中から過去記事をいくつか紹介しておきましょう。

●政治家にとって地球温暖化とはどんな問題か?
(2006年6月)気候の危機へようこそ-マッキベン語る
(2008年1月)マーク・ライナス:バリ島発コペンハーゲン行き


●気温安定化目標の重要性とは?
(2005年8月)「気温上昇幅の目標に慎重 温暖化対策で経産省」in共同通信
(2005年9月)日本の環境NGOの主張-気温上昇限度2℃目標を
(2005年10月)5.京都議定書の次のステップは何だろう
(2005年11月)英国シンクタンクの戦略文書「長期気候目標の設定」
(2006年3月)国会で2℃長期気温目標の議論始まる


●気温安定化目標の根拠は?
(2005年12月)回避すべき被害についての最近のまとめ
(2006年1月)雪だるまはころがり始めているか-ティッピングポイント問題
(2006年2月)エクセター会議報告本「危険な気候変動を避ける」
(2006年4月)英キング卿、3℃昇温が最良の予想と語る
(2006年8月)平均気温3℃上昇で森林の6割が消滅
(2007年8月)「不都合な真実」の6メートル海面上昇予測はトンデモ説か?
(2007年8月)暴走温室効果、帰還不能地点、ティッピングポイント


●先進国と途上国の間の公正さとはなにか?
(2005年1月)本の紹介:『グローバリゼーションの倫理学』
(2005年1月)一つの大気byピーター・シンガー
(2005年11月)「対策費用の経済学」への倫理学からの批判
(2005年12月)割引率再論または先延ばしの効用
(2007年5月)「美しい星50」の3つの懸念と3つの柱-原則論のススメ


●気温安定化目標と削減率目標の関係はどう動いている?
(2006年11月)マーク・ライナスによるスターン卿報告書の読み方
(2007年5月)ジョージ・モンビオ:2℃目標は諦めたのか?
(2007年5月)IPCCAR4における排出削減経路の紹介
(2007年12月)ワシントンポスト紙でビル・マッキベンが350ppmを力説
(2008年1月)福田首相はどんな気温安定化目標を想定しているのか?
(2008年7月)G8のリーダーへ350ppmの新目標設定を求める署名
(2008年12月)アル・ゴア、ポズナニ会場で350ppm目標を支持
(2009年1月)適応策:2℃のラインを守れ、しかし4℃昇温に備えよ
by togura04 | 2009-07-07 22:32 | 枠組みの解説